【経団連タイムス】常任幹事会で土居慶應義塾大学教授が講演
2024年7月25日、経団連タイムス(No.3646)に、土居丈朗君(慶應義塾大学経済学部教授)がおこなった講演「今後のわが国税財政のあり方」(7月3日開催)の内容が公開されました。
中でも、持続可能な財政運営に関するお話しは、当会にとっても参考となる興味深い内容でしたのでご紹介させていただきます。(引用元: Action(活動) 週刊 経団連タイムス 常任幹事会で土居慶應義塾大学教授が講演)
Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2024年7月25日 No.3646常任幹事会で土居慶應義塾大学教授が講演
■ わが国の財政状況と財政健全化の必要性
日本の国債・政府債務の残高はコロナ禍を経て一層拡大しており、対GDPでみた政府債務残高は、主要各国と比較しても高い水準にある。今後、金利上昇も想定されるなかにあって、適切な対応が講じられなければ、利払い費の増加等を背景に、必要な財政政策・支援ができない可能性も生じ得る。財政状況の悪化が経済成長に悪影響を及ぼしかねない状況を避けるためにも、財政健全化を進めていくことが求められる。
財政健全化に向けては、対GDP比政府債務残高を、諸外国と同水準である100%程度まで引き下げていくことを長期的な目標とする運営が必要となる。その際、参考となるのが、内閣府が2024年4月に「中長期的に持続可能な経済社会の検討に向けて」と題し公表した、60年度までのマクロの経済・財政・社会保障に関する長期試算である。この試算では、長期安定シナリオとして、技術進歩と労働参加が促され、やや高めの出生率が実現することで、1%超の実質成長率が実現するとされている。この場合、社会保障以外の歳出の伸びが名目成長率の水準にとどめられる限り、大幅な増税をしなくても財政は持続可能と考えられる。他方、必要な改革を行わない限り、現役世代に負担が偏る構図は変わらないままとなってしまう。
■ 持続可能な財政運営に向けて
財政運営を持続的なものとすべく、予算編成、財政投融資の積極的活用、税制改革の三つを取り上げたい。
まず、予算編成については、従来の単年度予算案の国会審議・執行の枠組みは維持しつつも、中期財政フレームとして、3年程度の歳出総額と、各年度の歳入・歳出をそれぞれ政策目標として示し、中期的な視点で支出統制、効率化を図っていくことが考えられる。
また、国民の税負担感を抑制する観点からも、財政投融資の積極的な活用を進め、受益者負担の徹底と出資事業に対する規律付けを図ることが有用である。
さらに、税制に着目すると、わが国の税制は、現役世代に負担が偏る所得課税偏重の構造となっている。負担の世代間格差が小さい消費課税へのシフトの議論は避けて通れないと考える。
加えて、税制を考えるうえで、財政民主主義の原則として、誰がいつ、どれだけ負担するのかを議会でしっかりと決めることを担保する必要がある。例えば、インフレが進展すると、政府債務は実質的に目減りし、国債の実質的な返済負担が軽減する一方で、国民の生活負担は大きくなるなど、いわば「インフレ税」とも捉えられる現象が生じてしまう。これは、法律によって定められた税制とは異なり、インフレ自体は事前に予測できないために、誰がいつ、どれだけ負担するのかを決められない点で、問題があるといえる。
このように、経済成長を阻害しないよう、税制改革を含めた持続可能な財政運営が不可欠である。足元の国民負担の増加を嫌って改革に向けた議論を避けるべきではなく、中長期的な視点での取り組みが求められる。
【総務本部】