慶應カレンダー2024のご紹介
今年も慶應義塾大学出版会より、「慶應カレンダー」が販売されました。
彩り美しい和・洋の貴重書を12カ月にあしらった壁掛けカレンダー(A3判)です。それぞれの貴重書の解説のほか、義塾の主な記念日やキャンパスも紹介しています。三田会の記念品や贈り物にどうぞ。
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(2024年版 1,200 円 消費税込)
まず表紙ですが、今回は5年ぶりに広重の保永堂版「東海道五拾三次」を使い、「藤川・棒鼻ノ図」を掲出しました。藤川は現在の愛知県岡崎市、日本橋から数えて38番目の宿ですが、画面中央に立つ宿場の名を示す「棒鼻」の前を通過しようとしている「八朔の馬」の行列と、それを土下座して迎えている宿の長たちの姿を描いています。「八朔の馬」とは、毎年8月1日に幕府から宮中に献ずる「八朔御馬進献」のことです。大名行列と違って、人様ではなく馬の行列ということで、長たちの表情も柔らかく、よく見ると左の方では、白と茶の子犬がじゃれついており、さらに左には行列を迎えるべくきちんと「お座り」をしている子犬が描かれています。可愛い子犬たちの姿を見て頂きたくてこの図を出しました。
3月の狂歌絵本「銀世界」は、喜多川歌麿が描く、雪中の景ながら温もりを感じさせるもの、5月の前北斎為一画「山満多山」も、野良仕事に出かけた亭主に子供の手を引き弁当やお茶を届ける美形の嚊のほのぼのとした様を描いています。
8月の「冨嶽三十六景・諸人登山」は、36景が好評だったために追加された10図の中のもので、シリーズ唯一の富士登山の実態を描いています。ご来迎を待つ人々がひしめいている岩室や、頂上を目指す人々、疲れ切ってへたっている人たちの姿が、如実に描かれています。現在の夏の乱雑、大混雑の観光登山を思い合わせると、感慨深いものがあります。
7月の「増補和漢書画古筆鑑定家印譜」は、斯道文庫教授佐々木孝浩氏の専門分野。江戸期の筆跡鑑定家達の名簿および印記で、その盛行ぶりには驚かされます。
また、洋物は名誉教授松田隆美氏の推薦。時禱書にはその月の典型的な農作業や、十二宮の星座図が描かれていますが、2月のそれは暖炉に当る男性の姿が迫力をもって描かれ、また、10月のロック「ロンドン・ウェストミンスター・サザーク市街図」は、縮尺約2436分の1、10年近くをかけて刊行された大型の地図帳で、18世紀中葉のロンドンの様子が路地一本に至るまで精密に描かれています。
最後12月の「幻燈写心競・女史演説」は、福澤諭吉や三田と関係が深い「演説」。遠くに洋装の女史が壇上から演説をし、ひやかしを含め男性の聴衆の反応も見せていますが、何と言っても、大型の洋犬を従え最新のファッションに身を包んだ女性。新しい時代の到来を予告しています。
広重の最晩年の優品9月の「武陽金澤八勝夜景」等とともにカレンダーを手に取り鑑賞してください。