【體育會蹴球部】タイガー戦車、強さ増す。
ラグビー情報サイト『JustRUGBY』に體育會蹴球部の記事が掲載されましたのでご紹介させていただきます。筆者は、伝説のラグビーマガジン元編集長・田村一博氏です。(引用元:https://www.justrugby.jp/check-it-out/2026/10/22/18525)
立大と戦った慶大の先発フロントロー。左から、3番の中谷太星、2番の藤森貴大、1番の井吹勇吾。青貫浩之監督は、帝京大、青学大との試合を踏まえ、「立教大学さんもすごくまとまったいいスクラムを組むと分析していましたが、それでもうちの方が今回有利と想定していました。それが、試合が安定した一つの要因になったと思っています。特に1、2、3番はいい働きをしてくれた」。スクラム強化について「時間をかけています。去年からスクラムコーチの金井(健雄)が来てくれて(週1/水曜日)、『青貫さん、3年かかりますよ』と言われました。まだまだ強くなっている途中だと思います。ただ想定以上に早く仕上がっているようにも思います。まだまだこれから強くなっていきます」。(撮影/松本かおり) 2026.10.22タイガー戦車、強さ増す。
田村一博選手間投票でその日のプレーヤー・オブ・ザ・マッチを選ぶことにしたら、「ユニットで選んでもいいですか」の声が出たかもしれない。
10月11日に足利ガスグラウンドでおこなわれた関東大学対抗戦A(第3節)、慶應義塾大学×立教大学(以下、それぞれ慶大、立大)で、前者は57-21と快勝した。
フォワードが勝利を引き寄せる働きを見せた。ブースター(慶大ではベンチスタートの選手たちを、そう呼ぶ)も含め、黒黄のジャージーを着たハードワーカーたちは、セットピースでもブレイクダウンでも、粘り強い立大を相手に前に出続けた。
特にスクラムでは終始プレッシャーをかけ続け、何度もペナルティキックを得た。それを機にチャンスを広げ、得点を重ねた。フォワード全員が称えられるべき働きを見せた中でも、フロントローたちは、試合の主導権を先に掴む意味でも輝いた。
1番から、井吹勇吾、藤森貴大、中谷太星。この3人は、今季開幕から3戦すべてに揃って出場している(開幕戦の帝京大戦には5-50、2戦目の青山学院大戦は61-10)。中学時代はFBだった4年生のHO藤森貴大(慶應/173センチ、102キロ)。(撮影/松本かおり) フッカーの藤森は、スクラムの舵取り役と言っていい存在だ。立大戦のパックの中で先発した唯一の4年生。試合前には、「1番の井吹、3番の中谷とは昨シーズンから一緒に組んでいたし、フォワードの多くが同じように経験がある選手たちなので、みんな(細部のコミュニケーションなど)やりやすいと感じていると思います」と話していた。
敗れた初戦の帝京大戦も含め、慶大フォワードは、スクラムで持っている力を出してきた。藤森は自分たちの組み方の特徴を、「全員の力を2番に集め、固まったまま前に出る」と話す。
8人が結束することは前提だ。「大きな力が自分にくるので、それを相手に伝え続けられる姿勢を作らないといけない。力がいちばん伝わる形を、コーチ陣にアドバイスをもらいながら作っているところです」
意識しているのは、まず、フッカー同士の組み合いで勝つことだ。そして、うしろの押しを余すことなくトイメンに伝え、ジリジリと前に出る。
部のOBでもある金井健雄スクラムコーチ(丸和MOMOTARO’S成田で現役続行中)、川村慎FWコーチとの共同作業で知見を深めている。普段から高いレベルを意識している。部内のスクラムセッションで相手を圧倒することを当たり前にするだけでなく、体力的にもきつい状況を作り、その中でも精度高く、一貫したパフォーマンスを出せることを追求する。
ウエートトレーニングでも、スクラムを意識したメニューに取り組む。試合ごとに残す結果と綿密な準備により、「いまやっていること、指導してもらっていることを出せたら、相手から反則を取れると思います」と臨んだ立大戦では、その言葉通り、何度も相手を崩した。
試合後のフロントロー3人は、いい表情だった。藤森は両脇の3年生のことを、「すごく頼りになる」と愛でる。
「2人には結構助けてもらっています。井吹くんは特に最近、フィールドプレー、ボールキャリーでもすごいんですよ」と話し、夏合宿時の関西学院大戦のプレーを口にした。
「スクラムハーフと並走してボールをもらい、そのまま独走トライをしたんです」
中谷についても、「慶應には珍しく118キロぐらいの体重があって(HP等では180センチ、115キロ)、キャリーも強い」とした。桐蔭学園時代は花園で頂点に立った3年生の1番、井吹勇吾(175センチ、100キロ)。(撮影/松本かおり) 立大に快勝したあと、後半11分までピッチに立った井吹はスクラムについて、「相手の嫌がることができたかな、と思います」と話した。
「相手が組み方を変えたら、僕もそこに対してちょっと変えて、また嫌がることをする、という感じです」押したり引いたり揺さぶってくる相手に対し、落ち着いてプレーした。そうできている理由を、「全員がイメージを共有して組めている」とする。
コーチ陣の指導を受け、同じ絵を頭にプレーできるようになった。「特別なことを教わっているわけではありませんが、基本的な押す向きが変わりました」。以前は「11時の向きに押していました」と、やや左前に意識を持っていっていた。
しかしいまは、「一人ひとりが相手としっかり組んで勝つ意識を持っています」と、まず勝負、を強調する。3番の中谷は試合後、ロッカールームから出てきてさっぱりしていた。
「途中、1番に助けられたところがありましたが」と前置きした上で、「総じていいスクラムが組めたんじゃないかなと思います」と話し、「ここからもっとまとまって、上位陣に対しても押していけたらいいなと思います」とさらに上を見た。体格に恵まれている。それゆえ以前は、「自分が押す」の意識が強すぎたと話す。
いまも目の前の相手と勝負する気持ちはある。しかし、考え方は以前と違う。
「1年の頃は結構ひとりで頑張っちゃって、それで押せなくなる、ということがありました。そこからスクラム自体の認識を変えました」3年生の3番、中谷太星は幼い頃、わんぱく相撲でも活躍。ラグビーは小3の時に長門ラグビースクールで始めた。中学時代は山口ジュニアラガーズに所属し、この日組み合った立大の1番、石原捷聖とはチームメートだった(石原は宇部小野田ラグビースクール出身)。(撮影/松本かおり) 8人で組む。その中でコミュニケーションを取りながら押す。
「ひとりで8人を押すのは無理だと思うんですけど、8人で8人を押すことはできる。その意識を持てるようになりました」
自分たちのスクラムを作り上げる中で中谷は、自分の役目を、「2番に集めた力を僕がもらい、まっすぐにしていくみたいなイメージを持っています」と言葉にする。中谷は東福岡の出身。2浪を経て慶大進学を実現し、現在は環境情報学部に学んでいる。
高校時代は膝の前十字靭帯などの怪我に見舞われ、思うような3年間を過ごすことはできなかった。3年時に背番号18で花園の芝を踏んだ(3試合)がスポーツ推薦で進学は叶わなかった。昨シーズン大学日本一となった明大の平翔太主将(現・三菱重工相模原ダイナボアーズ)は『ヒガシ』時代の同期だ。先に大学ラグビーの舞台へと歩を進めた仲間たちに負けたくない一心で、中谷は自力で慶大に進学しようと決めた。
早朝に起床。自宅ではだらけるとマクドナルドで勉強し、それから予備校へ。慶大一本に絞った浪人1年目は結果を得られなかったが、2浪目に複数校に合格した上で初心を貫いた。目標を定めたら、そこに到達する努力をできる人だ。慶大では1年時から出場機会を得ているものの、「自分の中ではスクラムが弱い、他大学の3番より劣っていると感じていた」と過去を振り返る。
そんな状況から意識とスキルを変えて、いま、「スクラムを強みに変えられつつあることは、僕の中ですごくポジティブなことと捉えています」と芽生えた自信を伝える。
強いスクラムの最前線にいる誇りと喜びが感じられた。金井健雄スクラムコーチはFWバックファイブの意識の変化も含め、全員で成長中と話す。「うしろ(LO、FL、NO8)の重りを強化する。その重さを前3人(フロントロー)が(相手に)ちゃんと伝える。前3人は相手との戦いをしっかりと制する。(スクラムには)いろんな軸があります。それをひとつずつやっていって、整え、(体重が)軽くても押せるようになった感じですね」。(撮影/松本かおり) 青貫浩之監督は、現在のチーム力について「いまは日本一になる力はない」としながらも、頂点に立つことをターゲットとするチームの指揮官として「シーズン中も成長し続ける」と誓う。
そんな足取りを積み重ねた上で、1月には大学王者にふさわしい力を持つ集団になるロードマップを描いている。その道を歩む上でフロントローには、仲間たちの先頭に立つマインドがあるだろう。
秋が深まる頃、黒黄の塊が戦車のように見えたらしめたものだ。







