[88] 奨学生の学生生活


理工学研究科 総合デザイン工学専攻 修士 2 年 村上俊之研究室 武藤一斗
(2019、 2020、 2021 年度同窓会奨学金採用)


理工学研究科修士 2 年の武藤一斗と申します。はじめに、学部生時代に皆様より頂戴した多大なるご支援に心から感謝を申し上げます。


大学卒業後、海外経験や更なる成長の機会を求め JEMARO(Japan-EU 高度ロボティクスマスタプログラム)という修士課程のダブルディグリープログラムに参加しています。ロボティクスと多文化への深い理解を目的とする本プログラムでは、1 年目をヨーロッパ(イタリア、フランス、ポーランドのいずれか)にて、2 年目を慶應にて過ごします。私は、イタリア最大の港町ジェノヴァにある University of Genoa にて思い出に溢れる 1 年間を過ごしました。本大学には欧州のみならず、アフリカ、アジア、南米からの留学生が多く在籍しており、異なる文化的背景や考えを持つ中で共に学び切磋琢磨する代えがたい経験を得ました。海外経験や高い英語能力も特段持ち合わせていなかった私は、留学当初は慣れない英語での講義や環境の違いに疲労困憊する毎日でした。しかし、理解の足りない箇所は友人に尋ねて議論を尽くし、授業アーカイブ動画を活用して復習を重ねるうちにロボティクスの体系的な知識と英語能力を身につけることができました。また、大学内外で国際色豊かな友人
と交友を広げ、世界を知り、日本や自分自身を客観的に見つめる好機となりました。更には、自分ならではの文化交流として、イタリアの方々に書道を教えるイベントを企画しました。現地日本食レストランと共同し、80 人を超える方々に書道を楽しんで頂くことができました。この留学経験は、大学院修了後に国際社会の中で生きていくための私の基礎です。言うまでもなく、記録的な物価高と円安に見舞われた留学生活でした。家賃は円換算で毎月 3、000 円ずつ値上がりし、帰国する頃には渡航時に比べ 20 円も円安が進行していました。留学で得た代えがたい経験は、本奨学金無くして得ることはありませんでした。


帰国後は、授業を履修しつつ研究を行う日々を過ごしております。研究テーマは劣駆動の小型水中ドローンの開発であり、機構と制御の両側面から取り組んでおります。洋上風力発電の開発に代表されるように、海洋産業の発展への水中ドローンの貢献が期待されています。高機動性と高エネルギー効率実現のため、従来よりも少ないスラスターの数で航行する機構と機体の安定性を確保する制御系を考案しています。最終的には、本研究の成果をもって豪州にて開催される国際学会に参加することを目標に取り組んでいます。

末筆ではございますが、私が記録的な円安に見舞われながらも 1 年間の留学に挑戦し、現在も充実した学生生活を送ることができておりますのは、ひとえに皆様方のお力添えのお陰でございます。改めまして、衷心より感謝申し上げます。頂いたご恩を次の世代に繋ぐべく、今後も邁進する所存です。

 

 


 

理工学研究科修士2年
小幡遼冴
(2020,2021年度同窓会奨学金採用者)


私は現在、理工学部物理情報工学科の井上研究室に所属し、人運転自動車の衝突回避制御の達成を目指す研究を行っております。衝突回避制御というと自動ブレーキやハンドルアシストのような制御機構を思い浮かべる方が多いと思います。しかし、こうした制御はシステムが自動車の運転の主導権を乗っ取ってしまうため、ドライバーが不快感を覚えることがあります。そこで私は、ドライバーに視覚刺激を与えることによってドライバー自身に衝突回避行動を促す、言うならば“間接的な”制御を目指しております。こうした間接的な制御であれば、ドライバーの運転行動は継続されるため不快感が生じる可能性は低く、衝突の回避が万人に保証されれば画期的な衝突回避制御手法になると考えております。昨年までには、視覚刺激を受けた際のドライバーの運転行動の個人差を把握するためにドライビングシミュレータを1から自作いたしました。

昨年は、5月には第67回システム制御情報学会にて視覚刺激を受けた際のドライバーの運転行動のモデル化に関する発表を、10月には第66回自動制御連合講演会にてドライバーモデルをもとにした、視覚刺激の設計法に関する発表を行いました。どちらの学会においても制御の専門家の方だけでなく、自動車の専門家の方々にも私の研究を知っていただくことが叶いました。特に、大手自動車メーカーの制御システムに携わっている方からいただいた質問が、自作のドライビングシミュレータの大幅な改善につながりました。今後も分野を絞らず、幅広く学会に参加することで自分の知見を深めるのは勿論のこと、より多くの方と交流することで制御、自動車界隈全体の発展に貢献していく所存でございます。

今年は自身の研究を進めていくだけでなく、後輩育成にも力を注いでいきたいと考えております。科学とはバトンリレーのようなものであり、私一人が進められる距離は僅かなものです。私が進めた地点から、さらに奥深くまで研究を発展させることができるように、後輩の方々には私の培ったすべてを伝えられるように努めます。

このように私が研究や学会への参加、後輩育成に十二分に時間を使うことができるのは理工学部同窓会奨学金をいただくことができ、アルバイトに時間を使う必要がなかったからです。慶應義塾および理工学部同窓会の方々にはこの上なく感謝しております。今後も慶應義塾大学理工学部の発展に貢献して参りたい所存でございます。

(写真1) システム制御情報学会にて発表している様子

(写真2) 自動制御連合講演会にて発表している様子

(写真3) IFAC World Congress2023に参加したときの写真

 


理工学研究科基礎理工学専攻物理学専修2年 小谷竜也


私は現在、理工学研究科の岡研究室に所属し、遠方天体の観測によって宇宙の起源と進化の歴史を探る研究をしています。私が注目する天体は、地球から約100億光年彼方で煌々と光り輝く天体「クェーサーPKS1830-211」です。遠方の宇宙からの光が地球に届くまでは時間がかかるため、遠くの宇宙を観るということは、昔の宇宙を観るということに対応します。そのため、クェーサーからの光は昔の宇宙の情報を我々に届けてくれます。その意味で、クェーサーは宇宙の歴史を知るには最適ですが、100億光年も遠くにある天体を観察するためには相当「視力の良い」望遠鏡が必要になります。そこで私が用いたのが、チリのアタカマ高地に建設された世界最高感度の電波望遠鏡であるアタカマミリ波サブミリ波干渉計 (略称:ALMA) です。私はALMAで観測されたアーカイブデータを解析することで、昔の宇宙に満たされていた宇宙背景放射の温度を測定しました。それにより、現在の宇宙が熱い火の玉から始まって断熱膨張し現在に至るという「ビッグバン宇宙モデル」を支持する結果を得ました。


昨年の9月には、名古屋大学 東山キャンパスにて開催された「日本天文学会2023年 秋季年会」に参加し、この研究を口頭講演にて発表させていただきました。日本天文学会は、銀河、星間現象、活動銀河核、宇宙論、観測装置開発など広範な分野の天文学研究者が日本全国から集い、最新の研究成果を共有して議論を行う学会です。本番では、事前の練習の甲斐もあり、質疑応答に的確に答えることができました。同時に、他大学の研究者の方々と議論ができ、研究が深まりました。また、今年の1月末には海外での研究発表にも挑戦しました。それは、タイのチェンマイで開催された「East Asian Young Astronomers Meeting 2024 (略称:EAYAM 2024)」という国際研究会です。EAYAM2024は、世界各国の若手の天文学者が研究成果を持ち寄って意見交換や議論を行う場であり、そこで私は上記の研究をポスター発表させていただきました。ポスターセッションでは世界各国の研究者と盛んに議論をすることで、数多くの意見や質問をいただくことができました。


これらの学会・研究会への参加を通して、私の研究をより多くの研究者の方に知っていただけたことは勿論のこと、質疑応答を通してこれまで持っていなかった視点や、私自身抱いていた疑問に対するヒントをいただき、非常に有意義な機会であったと実感しております。今後もこのような機会には積極的に参加し、情報発信ならびにインタラクションすることで、次世代の電波天文学の発展に貢献して参りたい所存でございます。


来年からは宇宙関連事業を行う企業に就職し、大学と大学院で培った知見を活かすことで、日本の宇宙開発・宇宙利用の発展に貢献したい所存でございます。そのため、残された半年の大学院生活を実りあるものにするべく、今年の9月の日本天文学会2024年 秋季年会への参加と論文投稿を目標に、日々奮闘しております。


以上が私の現在の学生生活の概略でございます。このように私が研究活動に邁進できるのも、ひとえに理工学部同窓会奨学金を通して同窓会の皆様方にご支援いただけた賜物であると日々実感しております。多大なる御支援に心より深く感謝申し上げると共に、今後も慶應義塾大学の発展に貢献して参りたい所存でございます。


甚だ未熟者ではございますが、今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。

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